書評・感想ブログ。
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スロウハイツの神様 / 辻村深月 (講談社)

この子を、僕の文章が笑わせた。


学生時代、わたしの神様はMDウォークマンだった。ひとりになりたい時、その空間から姿を消したい時、音楽は瞬時に外界からわたしを切り離してくれた。そんな音楽を作ってくれていた人たちを神様だと思っていた。何かにすがりたい気持ちでいっぱいで、強がっていた学生時代を思い出して、必要以上に本書のキャラクター達に感情移入してしまった。
この神様について、とても多くを語りたいのだけれど、うまく語れない。どこをかいつまんでいいのかわからない。本書の中で、ケーキを手に入れた環がケーキを譲ってくれた店員に「自分の中にあるストーリーを知って欲しい」と語り尽くせない思いについて語るシーンがあるけれど、まさにそれと同じだ。その感情を持て余しているので、ブログを書いているといっても過言ではない。
作中でチヨダコーキが「この子、僕の文章が笑わせた」と語る所がある。わたしは本を出版したことはないけれど、ほんとうにこの一文に尽きるのではないかな、と思った。人生は簡単に変えられないけれど、日常を忘れさせて、物語の世界の中へいざなう。それだけのために、きっとクリエイターたちはものを生み出し続けているんだろうな。
そう思ったら、自信を持ってわたしは作品を受動し続けよう!と思うので、不思議。
 

存在感のある光の前には常に影が生まれる


この本を読もうと思ったのは、ほかにも理由がある。
読み返していた「黒子のバスケ」の主人公である黒子テツヤが読んでいたのである。(何巻か忘れちゃったけど)古典文学ならまだしも現代文学をわざわざ読ませる意図とは?と気になったのだ。
比較しなくてもわかるんだけれど、共通項が多くて驚く。
「存在感のある光の前には常に影が生まれる。その影が濃く、その闇が深ければ深いほど、光の明るさはより際立つ。」
この文章が一番ダイレクトに光と影について語っているのかな、と思うけれど、作中のカガミ姓の子をからかうために鏡を使った光を使ったいじめをするというエピソードを読むと、もう一声、黒バスの方にえぐいものを期待してしまう自分もいる。
黒バスのファンの方に読んで欲しいし、読んだら感想を書いて欲しいな、たくさん!と思っている。
 

いつか終わりが来て、それが来ない場合には、きっと形が変容していく


こういう何人かの人物が集まっているお話を読んでいると、自分も仲間に入っている気分で読んでしまうので、中盤からの「いつまでもみんなと一緒にはいられないね」という歯車が狂いだす瞬間がつらい。本書でも、とてもうまくいっている風だった正義とスーのカップルが破局するあたりから大きな転換が見え始め、わたしは無駄に動揺した。恋人の髪の毛を切るスーの設定が好きで、それを良しとしていた正義もすきで、ああ二人に幸あれと今も思っている。

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魔法飛行 / 川上未映子 (中央公論新社)
評価:
川上 未映子
中央公論新社

なんだって継続にしか意味がなかったりするからね。


川上未映子さんのエッセイである。
本を読むとき、気に入った文章に付箋を貼っていきながら読んでいるのだけど、この「魔法飛行」を読んでいる時に付箋が足りない事態に陥り、ノートに書き写しながら読んだ。中学生の頃、好きな歌の詞をひたすら書いていたことを思い出し、自分の意思の詰まっていない言葉をひたすら書くっていうのも悪くないねと思うのだった。
エッセイといっても、日記風のものでもないし、唐突に詞がはいったりする。ページもまちまちで、何かのテーマに沿って書かれたんだなという印象もなく、本当に素のそのもののテンションが見え隠れしているのも(オタク的な)胸を熱くさせる。
 

子どもの胸とあたまのなかで分解されていた言葉を思うと夏という気がとてもする。


夏に対して、未映子さんが「子どもそのもの」と書いていて、ああ本当だなあと思う。小学校1年生の夏休みから、わたしの記憶の夏はくっきりとしはじめ、19歳の夏休みでそれが消えた。漠然とあとは「暑いなあ」「花火だなあ」「秋の匂いがし始めたよ」の繰り返しで、夏の形があまりない。夏は子どもの季節なのだ。いやいや行っていたラジオ体操が恋しくなるし、プールとか蝉の鳴き声とか足についたござの痕。子どもの頃に経験していないと懐かしくも思わないわけで、わたしは自分の子どもらにそれらを数年かけて経験させてやらないといけないな、と思う。
この「子どもの胸とあたまのなかで分解されていた言葉」というのが、わたしにもひとつある。
「正露丸糖衣A」だ。CMで聞く限り、「正露丸とイエーイ!」だと思っていた。元気になる薬なんだなあと子ども心に思い、大人になってから、腹痛で正露丸の薬瓶をまじまじと見つめて、その間違いに気がついた。冷静に考えればありえないネーミングだというのに、子どもの頭はそれをよしとしてしまう。腹痛を忘れるほど笑った。でもその場にいる家族には言えなかった。

エッセイを読んでいると、忘れてしまっているわりとどうでもいい生活の断片を思い出す。それが好き。


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ペンギン・ハイウェイ / 森見登美彦 (角川書店)
評価:
森見 登美彦
角川書店(角川グループパブリッシング)

これが自分を観察するということであろうか。


観察と研究と考察を繰り返す、抜きん出た小4男子アオヤマ君。彼の町に現れたペンギンの大群。どうやらそれに関与しているらしい歯科医院のお姉さん。アオヤマ君はお姉さんの研究をすることになる。

アオヤマ君は気難しい子なのかと思いきや、「おっぱいのことを考えれば怒りはおさまるよ」とぬけぬけと言う子供である。自分の世界をきちんと持っており、ペースを乱さない。いじめられても、淡々と研究を続ける。共感できるようなできないような不思議少年のアオヤマ君。彼の語りで物語は進む。
彼は賢いけれど、子供であるが故に、彼の中でお姉さんがどのような存在であるのかがわからない。そこがいじらしくてかわいい。お姉さんが体調を悪くすれば一緒に元気を失い、お姉さんが何も食べられなくなったら、自分も同じような体験をして分かち合おうとする。
中盤から、ともに研究をする仲間が増え、夏休みに突入する。基地を構え、定点観測などをする。夏休みの自由研究が苦痛でならなかった身としては、自主的に本格的な実験をしている彼らが末恐ろしい。しかし、本当に興味があることだったら、これくらいの熱心さで実験をするのだろうな、子供は。
 

「でも、世界には解決しないほうがいい問題もある」


すべてに結論・回答をつけて生きてきたアオヤマ君もペンギンの研究は行き止まる。そこで父が彼にこの言葉を投げかける。生きていると解決しないほうがいい問題、時間が解決する問題等々さまざまなものが生じる。そのさじ加減を知るということが大人になるということなのかなあとぼんやりと思う。

この物語は「アオヤマ君の初恋の物語」といってしまえばそれだけである。
それだけであるが、恋というものを認識したことがない小学四年生の男子がそれを理解するには、これだけの不可解な要素が必要で、そしてすべて終わってから彼は言う。「父さん、ぼくはお姉さんがたいへん好きだったんだね」
なんでもかんでも恋愛に結びつけてしまう下世話な大人になってしまったものよ、と自分を哀れんだ。
気持ちと言葉が結び付かないというのは、もどかしいけれど素敵なことなのかもしれない。


2011年本屋大賞第3位
第31回日本SF大賞

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残り全部バケーション / 伊坂幸太郎 (集英社)

「問題」児がいるのであれば、「答え」児もいるのではないか、


わたしの読書熱の再スタートは伊坂幸太郎の「オーデュボンの祈り」だった。よって、伊坂作品には並々ならぬ期待があり、読み始める前に少しだけ特別な気持ちになったりもする。
そんなわけで、一ファンとしては、「いつも通りの伊坂幸太郎の著作」を読みたいと思う反面、「新しい伊坂幸太郎の一面も読んでみたい」とも思う。でも、いつもと違いすぎても困る。そんなわけで、いつも新しい本を手にするときは緊張する。どっちだ?

本書は、裏家業から足を洗いたい若者岡田と裏家業のベテラン溝口の連作短編である。
見知らぬ家族とドライブをしたり、タイムスリップを演じたり、検問にひっかかったりする。時代も語り部もバラバラだけれど、伏線が回収され、物語がすっとひとつにまとまるお馴染みの伊坂作品だった。

なんだかいいなあと思っていたのは、「ゴルゴ13」で語られる時系列だ。
ある話では、溝口が岡田に、ゴルゴ13を全巻読んでみたいなあと漏らし、ある話では全巻読破したことを自慢する。物語では語られない部分で溝口が生活していることが伝わってくる。ゴルゴ13の全巻読破。おっさんらしい。
若者とおっさんのコンビというのはずるいよなあ。


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美女と竹林 / 森見登美彦 (光文社)

事件は机上で起こればいい


何冊か読んだところで人となりが気になったので、エッセイを読んでみる。おお、このタイトルも聞いたことがあるぞ……森見さんはこっそりとわたしの外堀を埋めていたのであるな、ふむふむ。
本書はエッセイであるはずなのだが、森見さんの好物「美女」と「竹林」に特化した書物であり、またその大半が森見さんが得意とする「妄想」である。エッセイであるはずなのだ。エッセイで……。

たとえば、レポートだとか読書感想文を書かなければならないとする。だがしかし、時間がなかったり、課題図書とどうも気が合わずに読みきれない。ネット上のものをコピペするのは盗用である。どうするか。
本書の出番です。
「美女と竹林」について書く、「竹林の手入れ」について書く、という主旨から大きくはずれていく様は見ものである。中盤以降は竹林へ行けないことへの懺悔、竹林開発が成功した場合の妄想が綴られ、「そうやって文字数を稼ぐのか、森見氏よ」と学ばせていただいた。つまり、自分の文章で妄想を書き綴ればいいのだ。

これじゃあ、あんまりなので、本書で「竹林」について学んだことを報告する。
竹林は1本が開花すると枯れるのである。地下で竹がつながっているから!すごい。竹って花が咲くんだ。気にしたこともなかった。どおりで竹の花を見たことがないわけだ。
本書を読むと、森見さんのほかの作品で登場する「竹林」に敏感になる。あそこにもここにも竹林。
美女はどこへ行ったのやら。

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