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評価:
吉田 修一
文藝春秋
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オカマの閻魔ちゃんとの日々を録画したビデオテープをさかのぼって見ている僕。
飯を食う僕。
酒を飲む閻魔ちゃんと大統領と僕。
ダメな男を閻魔ちゃんのために演じる僕。
色んな僕を客観的に眺めながら、僕が向かう先は…?
再読です。たぶん4年前くらいに読んだのですが、
「最後の息子」というタイトルの意味だけに納得したことしか覚えていませんでした。
今回、読み直そうと思ったのは、
河合龍之介さんという俳優の方が
ブログで吉田修一さんの著作を紹介していたからです。
閻魔ちゃんの前でダメな僕を演じる、滑稽な僕がとてもいい。
特に好きなのが、序盤の風呂を洗う僕が好き。
そして、あだ名で読んでいた友人たちの名前を本名に書き換えていく僕。
修正テープで消して、上からフルネームで名前を書き直していく。
前読んだ時はなんとも思わなかったのに、今はやけに心に残る。
「現実」に還ろうとしている僕の姿。
同時に収録されている「破片」という短編もなかなか切なく、
その中で亡くなった母が言うセリフが好きです。
「男の指には、女の握った『おむすび』が一番似合うとよ、
潰さんよう上手に持って食べられたら、一人前になった証拠さ」
なんかこれ、映像になって実際に人の声で発せられるとすごい言葉なんだろうな、と思いました。
もうひとつの短編「Water」の中のセリフもとても好き。
「坊主、今から十年後にお前が戻りたくなる場所は、きっと今のこのバスの中ぞ!
ようく見回して覚えておけ。坊主たちは今、将来戻りたくなる場所におるぞ」
と、バス運転手さんが主人公に言うのです。
これは、映像になって言葉になったら鬱陶しいような気がするのですが、
小説の中で文字の羅列の中にひっそりと佇んでいて、素敵です。
そんなことその時は思わないんですよね。
「最後の息子」は映画で観てみたいな、と思いました。
(253p)
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