魔法飛行 / 川上未映子 (中央公論新社)
2014.08.28 Thursday
なんだって継続にしか意味がなかったりするからね。
川上未映子さんのエッセイである。
本を読むとき、気に入った文章に付箋を貼っていきながら読んでいるのだけど、この「魔法飛行」を読んでいる時に付箋が足りない事態に陥り、ノートに書き写しながら読んだ。中学生の頃、好きな歌の詞をひたすら書いていたことを思い出し、自分の意思の詰まっていない言葉をひたすら書くっていうのも悪くないねと思うのだった。
エッセイといっても、日記風のものでもないし、唐突に詞がはいったりする。ページもまちまちで、何かのテーマに沿って書かれたんだなという印象もなく、本当に素のそのもののテンションが見え隠れしているのも(オタク的な)胸を熱くさせる。
子どもの胸とあたまのなかで分解されていた言葉を思うと夏という気がとてもする。
夏に対して、未映子さんが「子どもそのもの」と書いていて、ああ本当だなあと思う。小学校1年生の夏休みから、わたしの記憶の夏はくっきりとしはじめ、19歳の夏休みでそれが消えた。漠然とあとは「暑いなあ」「花火だなあ」「秋の匂いがし始めたよ」の繰り返しで、夏の形があまりない。夏は子どもの季節なのだ。いやいや行っていたラジオ体操が恋しくなるし、プールとか蝉の鳴き声とか足についたござの痕。子どもの頃に経験していないと懐かしくも思わないわけで、わたしは自分の子どもらにそれらを数年かけて経験させてやらないといけないな、と思う。
この「子どもの胸とあたまのなかで分解されていた言葉」というのが、わたしにもひとつある。
「正露丸糖衣A」だ。CMで聞く限り、「正露丸とイエーイ!」だと思っていた。元気になる薬なんだなあと子ども心に思い、大人になってから、腹痛で正露丸の薬瓶をまじまじと見つめて、その間違いに気がついた。冷静に考えればありえないネーミングだというのに、子どもの頭はそれをよしとしてしまう。腹痛を忘れるほど笑った。でもその場にいる家族には言えなかった。
エッセイを読んでいると、忘れてしまっているわりとどうでもいい生活の断片を思い出す。それが好き。
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